『Baby large panic!?‐7‐』
買ってきてもらったフルーツを適当に選び、食べやすいように皮を剥き、筋を取り、取り出したガラス皿に盛り付けていく。
盛り付けたものを伸吾君には一皿、後は皆で食べるようにと少し大きめの皿に山盛りにしてテーブルに置いた。
「先生・・・俺・・・こんなには・・・」
「食べましょうね?」
「・・・ハイ・・・」
無理やりでも食べてもらわなければ、と、この頃の彼の食生活を聞いた時から心から思っていた。
「それにしても本当に色々な柑橘類を取り扱っているんですね、このお店」
「ええ、季節外のも置いてるんでびっくりしますよ」
買われてきた袋の中にはみかんをはじめ、グレープフルーツ、甘夏、伊予柑、はっさく、デコポン、バレンシアオレンジ...etcといった様々な柑橘類が
入っていた。
「ぅ〜・・・・・」
「食べずらいですか・・・?」
先ほどから一口二口しか食べていない伸吾君に近寄り、話しかける。
「なんか、やっぱり・・・気持ち悪いんです・・・」
「・・・はぁ・・・」
「すみません・・・」
しょげた仔犬のような姿に、気にしないで、と頭を優しく撫でやりながら、
「そんなままでしたら、元気な赤ちゃんが生まれませんよ?」
「っえ!?///」
「「如月先生!?」」
「「「瞳(さん)!?」」」
『核心突いたよこの人!!』といった、バックからそんな私の名前が聞こえたけれど、この際気にしてはいられない。
伸吾君にはもう少し食べてもらわなければいけないのだから。
「せ・・せんせ!?」
「はい?」
「お・俺・・」
「ほら、そんなに驚かない。もう、貴方のここには新しい命が居るかもしれないんですよ?」
そう、いいながら私は伸吾君のお腹に優しく手を当てた。
その仕草に伸吾君はとても複雑な顔をしながら、
「俺・・・そんな急に言われて・・・どうしたら、・・いい・・のか・・・わかん・・・なくて・・・・ッ!!」
「泣かないでください、伸吾君」
見る見るうちに目に溜まった涙が、その頬を滑り落ちていく。
きっと、今までに沢山の不安を抱えていたのだろう。
17、8才のしかも男に子供が宿ったなどと非現実的なことが、ある日突然自分に降りかかったこの子に私は何をしてやれるのだろうと、心の中でずっと考えて
いた。
「本当は・・・どう・・すれ・・ば、いい・・のか、全・・ぜん、わか・んなくて・・・、俺・・自分が自分で・・・分かんないんです・・・」
「・・・」
そんな伸吾君の様子を他の人たちは静かに見守っていた。
「俺、どうなるんですか!?・・・俺・・・本当・・・に、子供が・・居るんですか?・・俺、どうなっちゃうんですか・・・?」
そう言うと、私が当てていた手の上に、自分の手を乗せて、不安そうに、再び泣き始めた。
「俺、怖いんです・・・如何すれば・・・いいんですか・・・?」
「怖がるな・・・とも、心配するなとも言いません」
私に出来ることは数少ない。
それでも、出来ることが一つでもあるのならこの子のためにしてやりたい。
「先生ぇ・・・」
「でも、自分を否定することだけはしないでください」
そう、言うと私は伸吾君を優しく抱きしめた。
「確かに恐ろしいだろうし、心配だろうとは思います。でも出来るだけ前向きに考えて行きましょう。怖がりながらも、心配しながらも、できるだけ。今、私達
が貴方にしてあげられることは、とても少ない。・・・本当に少ないんです。貴方の変わりになることさえも出来ないんです。だから、どうか自分を否定するこ
とだけはしないで下さい」
腕の中で未だに不安に胸を苦しめているこの子を思うと、こちらさえも不安で仕方がなくなってくる。
この子に、私はいったい何をしてあげられるのだろうか?
「私達は貴方のそばに居ます。何かあったら必ず助けます。不安になったら一緒に不安になって、貴方と同じ道を横に並んで歩きます。だから・・・」
――どうか、貴方らしさを失わないでください。――
「そうだよ伸吾!!」
「如月先生の言うとおりだぞ、伸吾」
「何か不安になったらいつでも俺たちに言え!」
「いつでも聞きますから先輩!」
「いつでも話してくれ」
今まで静かに見守っていた5人も加わり、腕の中から顔をあげた伸吾君は、ようやく、
「・・・うん」
小さくながら、頷いたのだった。