『Baby large panic!?‐6‐』
白鐘先輩と一緒にスーパーの店内で多種の柑橘系果物と、飲み物を籠に入れながら歩いていると、
「ママァ〜!!」
お菓子の棚の列で3歳ぐらいの男の子が泣いていた。
近くに親はいなく迷子になっているのだと分かった。
慌てて近寄り、
「どうしたの?お母さんと逸れた?」
そうたずねると、その男の子は大きな目に涙を沢山抱えながらも、懸命に涙をこらえながら頷いた。
その様子に、エライ、と頭を撫でてやりつつ、
「白鐘先輩!!」
ちょっと離れたところにいた先輩を呼びこちらに来てもらうことに。
「どうしたんだ、剣崎君?」
「すみません、この子がお母さんと逸れてしまったようで・・・」
白鐘先輩の大きさに驚いたのか、僕の後ろに隠れてしまった男の子の頭を優しく撫でながら状況の説明をすると、
「そうか・・・なら、俺は一回りしてこよう。それほど広い所じゃないから直ぐに見つかるさ」
「そうですね、お願いします」
僕が一つ頭を下げると、先輩は笑って去っていった。
その間、ずっと僕のズボンにしがみ付いたままの男の子。
僕はしゃがんで男の子と同じ視線になるようにした。
「僕、お名前は何て言うの?」
「シンゴ!!!」
「え・・・?」
「シンゴっていうの!!」
元気よく発せられた名前は、よく知っていた名前だった。
「シンゴ・・・君?」
そう聞き返すと大きく頷いて肯定した。
その仕草が、妹に似ていてなんだか、少し切ないような・・・そんな気がした。
「シンゴ君は何が好き?」
「シンゴはボ○ケン○ッド!!!」
「そっか、ボウケン○ーが好きなんだ?」
「うん!!」
大好きな単語が出てきて嬉しそうに頷く様子に、ふと伸吾先輩のことが頭に浮かんできた。
あまり深く考えるようにはしていなかったのだが、もし、もし本当に伸吾先輩に赤ちゃんが出来るのだとしたら・・・・
伸吾先輩みたいにやんちゃくれなのかもしれない。
こんな風に迷子になって、人を沢山心配させるんじゃないかな?
「お兄ちゃん・・・・?」
黙りこんでしまった僕をシンゴ君は再び不安そうな様子で見て、僕の袖を小さな両手でぎゅっとしっかりつかんできた。
「あ、ごめん!なんでもないからね?」
慌て、男の子の頭を撫でながら、
「今日はおかあさんと来たの?」
違う質問をしてみた。
「ママ!!」
「そっか、一緒に来られてえらいんだね」
再び元気な返答が帰ってくる。
そうこうして、15分ほど経った頃だろうか、少しはなれたところから、
「シンゴッ!!!!」
「ママッ!!」
シンゴ君のお母さんが来たらしく、男の子は少し離れた所にいたお母さんのところへ元気よく駆け出して行った。
その後ろには白鐘先輩。
良かった、ちゃんと見つけられたんだ。
そう安心しながら親子に近づくと、
「ありがとうございました」
心から安堵した表情のお母さんと、もう離れるものかとしっかり母親の手を握るシンゴくん。
「どういたしまして。よかったねシンゴ君、お母さんと会えて」
「うん!!」
「本当に、ありがとうございました」
「いえ、お気遣い無く」
そう何度もお礼を言いながら去っていく親子を見守る僕と白鐘先輩。
「良かったな、ちゃんと母親に会えて」
そういう白鐘先輩に、
「そうですね。先輩、あの子シンゴ君って言うんですよ?」
「そうらしいな、母親が読んだ時はこちらがびっくりした」
なんとも言えない表情で小さくため息をはいた白鐘先輩。
「もし・・・もし、伸吾先輩に赤ちゃんが生まれたとしたら・・・」
「・・・」
「あんな風に元気でやんちゃくれで、こんな風に迷子になって、人を沢山心配させる、元気玉なんですかね?」
「・・・そうだろうな」
僕の言葉に小さく笑いながら白鐘先輩は肯定した。
「不安になるなというのは、無理ですけれど・・・少しは良いほうに考えても良いんですよね・・・?」
それが事が発覚してから今まで、僕の心を揺さぶっていた。
「ああ」
白鐘先輩は頷いて、僕の頭を一回撫でた後、
「さ、早くこれを買って帰ろう。伸吾が待ってる」
買い物籠を持ち上げてレジへと歩き出す。
「はい!」
その背に大きく返事を返しながら、僕は、生まれてくるかも知れない新しい命と共に、こうやって歩き出すことを夢見たのだった。