『Baby large panic!?‐5‐』


手元に配られたお茶を飲みつつ、少し離れたところにいる伸吾に視線を向ける。
ちょうど、一条に頭を撫でられ、そのしつこさに一条の手を叩き落とす伸吾が目に入った。

『伸吾が妊娠』

その言葉は、今でも信じることが出来ないでいる。
男が子供を生むことが出来ないことは俺でさえ知っている。
男が子供を埋めない理由は、前にテレビで言っていたが、出産時の痛みに耐えられないからだとも言っていた。
果たして、伸吾は大丈夫なのだろうか。
そう、ぐちゃぐちゃな考えが頭の中を埋め尽くし、頭を振ってそんな考えを外へと追いやった。
「伸吾」
「白鐘さん」
俺は、伸吾の様子見をかねて声をかけた。
「何か食べたいものは無いか?」
「食べたいもの・・・?」
つわり(らしい)の症状が少しひどいため、あまり食べ物を食べていないと昨日言っていた伸吾を思い出し、何か欲しいものはないかと聞いた。
「・・・きっと、食べ物見ると気持ち悪くなると思います・・」
犬みたくしょげた伸吾の頭を撫でて、
「だが、少しでも何か食べたほうがいいだろう?」
そう、伸吾に言うと、
「その通りですよ。伸吾君。何か少しでも食べましょう?朝ごはんだって半分ぐらいしか食べなかったではありませんか」
瞳が、援護射撃をしてきた。
「あう・・・」
「それに、そのままでは身体に負担がいっそう強くかかりますよ。せめて何か食べなくては」
瞳にそういわれ、伸吾はしぶしぶ何か考え始めた。
「じゃ・・じゃぁ、グレープフルーツ・・・とか」
グレープフルーツ。
「柑橘系がいいのか?」
俺がそういうと、小さく頷いて、
「なんか、さっぱりしたのがいいんです」
「分かった」
買いに行こうと、玄関へ向かうと、
「白鐘先輩!」
後ろから剣崎が追って来た。
「僕も一緒に行っていいですか?」
荷物も重いと思うし、と言い出てくれる剣崎に、
「ああ、頼むよ」
と、笑いながら先に出た。

「ちょうど近くのスーパーが柑橘系いっぱいそろえてるんですよ」
「そうか」
道を歩きながら、ふと反対側に視線を向けたら、ベビーカーを押した母親が、何かを訴える我が子に嬉しそうに答えながら通り過ぎていった。
伸吾の子供。
それはやはり、伸吾に似ているのだろうか?と、疑問が浮かんだ。
何せ、相手がいないのだ。相手がいなくても妊娠できるのか、そんな天変地異の前触れみたいな出来事が、実際に起きてしまったのだからしょうがない。
だが、伸吾に似ているとなると、やはり元気いっぱいといった感じだろうか?
いっぱい食べて、いっぱい寝て、いっぱい笑って、いっぱい泣いて・・・
色々な表情をめまぐるしく見せてくれるのだろうか?
きっと伸吾に似てとても可愛らしいだろうな。
仔犬みたいにあっちこっちに行きたがるだろうから色々と連れて行ってあげよう。
1ヶ月に一回はTDLかTDSがいいか。
他にも山や川もいいな。
海も捨てがたい。
動物園や水族館もいい。
いいや、別に国内にだけじゃなくて海外にも連れて行ってやればいいか。治安のいいところに連れて行ってやらなきゃな・・・もし、何かあったら自分を恨んで も恨みきれなくなってしまうし・・・
大きなぬいぐるみは喜んでくれるだろうか?男の子だったら車が言いか?
いや・・・他には・・・・

早くも新米パパになっていることに気がつかない白鐘氏であった。





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