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「惑い」







茂みから現れた凌統に俺は一瞬にして凍りつく。

向こうも暫く呆然としていたが、俺は慌てて周泰の胸を今まで よりも強く叩いた。

そうこうしているうちに、凌統はこちらに侮蔑の一瞥をつげ再 び来た道を去っていった。

俺は思い切り、絡めてくる相手の舌を犬歯で強く突き刺した。

「・・・ッ!!」

反射的に周泰は俺の体を突き放す。

「・・・ッてんめ・・・・どういうつもりだッ!!?」

鉄の味と匂いが口内に広がる。俺は口を抑え、その匂いに吐き 気を覚えながら言い放つ。

「・・・接吻だ・・・」

いつもと変らずに静に答える様子に血が逆流したのを感じた。

「んなことじゃねぇ!!凌統だ!!来たことに気がついてたん だろッ!?」

「・・・」

「分かってて続けてただろッ!?」

怒りに俺は、周泰の胸倉を鷲掴み怒気を含んだ睨みで相手を見 上げた。

「どうなんだッ!?」

「・・・だからといって・・・・」

「・・・」

「だからといって、何がある?」

放たれたその言葉に完全に怒りが頂点へと上った。

何か言う前に、腕を振り上げ相手を殴りつける。

「・・・」

それでも何も言わずに静かにこちらを見ている周泰に、俺は何 をとも言えぬ感情を抱き、 その場を走り去った。

向かう当ても無くそのまま走りつづけると、目の前に見知った 男が丁度戻る予定だったの か、歩いているところに出くわした。

「・・・餓鬼・・・か?」

俺は無我夢中でそいつに、夏候惇に縋り付いた。

「・・・どうしたんだ?」

「・・・俺は・・俺はッ・・くそッ!!」

俺は相手の問いに答えられず、縋り付き地面を睨んだまま毒づ いた。

そんな俺の肩に相手は、両手を置き、落ち着かせるように、

「一先ず俺の天幕へこい。直ぐ其処だ」

と、そう静に言うや否や、少し強引に肩を抱き直ぐ其処の天幕 へと引きずり込んだ。

夏候惇の天幕の中には2,3人が座れるように 布が引いてあり、俺はその一番隅へと腰を下ろした。

「・・・喋らなければ分からんぞ?」

「・・・・」

俺の真正面に腰を据えた夏候惇は近くにあった酒瓶から酒を掬 い俺に差し出した。

「一先ず之でも飲め」

差し出された酒を受け取り、何も言わず一気に飲み干す。

「・・・・・周泰殿となにがあったんだ?」

小さな溜息をついてからそう聞いてきた相手に俺は驚き、瞬時 に顔を上げた。

「やはり、当りか・・・・」

「・・・ッ///!!」

釜を掛けられたことを知り、居心地の悪さに視線を自分の足元 へと向けた。

「で・・何があったんだ餓鬼?」

「・・別に・・・なんでもねーよ・・・」

再び小さな溜息が聞こえてきた。

「そんな顔をされても説得力はないぞ?」

そう言うと,夏候惇は立ち上がり俺の横へと腰をおろし、

「ほら・・・言え」

ぐっと抱き寄せられ、俺は夏候惇の肩口に顔を埋める。

「・・・・本当に・・・何でもねーんだよ・・・俺の唯 の・・・独り善がりだ」

「それでもいい。話してみろ」

そう、優しく促され俺は相手の肩口に顔を埋めたまま先ほどの ことを話した。

一回関係を持ったからといっても所詮、それだけのこと。

割り切っている関係だったらなおのこと。

俺は唯一人、自分でも自制できない一部が、舞い上がってい た。

> 『だからといって、何がある?』

ああ、本当にそうだよ。何があるんだ。

俺は唯、一回関係を持っただけなのに。

「・・・・そうか」

全てを話し終え、夏候惇はそう言った。

「一人善がりだった。・・・分かってたことなのに よ・・・・」

「・・・・・」

何も言わず、抱き寄せられたまま、俺は少し力を抜いた。

そんな時、

「夏候将軍、書状を持った孫呉の凌統という将軍がお尋ねにな られましたが、いかがなさ いますか?」

一旦力を抜いた俺の体は“綾統”の名前に再び緊張し力がは いった。

「・・・・分かった、暫く待ってもらえ」

緊張したのが伝わったらしく、暫し俺の様子を確かめてからそ う、兵に告げた。

「どうする?裏から出るか」

「・・・・」

“綾統”の名前に夏候惇も察しが付いたのだろう。少し心配そ うに訪ねてくる。

俺は静に首を振った。

「あんたがいるから、・・・きっとあいつも平気だろう」

「そうか・・・」

そう言い、静に体を離し、夏候惇は先ほどの位置へと腰を下ろ した。

「入ってもらえ」

暫くして凌統が天幕の中へと入ってきた。









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