生命の神秘。

正直言ってしまうと、それは女性が実感するものだと思っていた。

つい、この間までは。





『Baby large panic!?‐10‐』








如月瞳と表札の掛かったマンションの一室。
俺は未だここに居る。

窓辺のソファーで、日が燦々とあたる暖かな昼下がり。
何をする出なくただただぼーっとしているだけだ。
そして、時折思い起こさせるように吐き気を伴う吐気に襲われる。
そのたびに、俺は自分の体が自分のものでなくなっていく不安と恐怖に襲われていく。

本当に、俺の中には赤ん坊が居るのだろうか?

よく街中を歩いていると、お腹を大きくして幸せそうに歩いていく女性を見かける。
微笑ましく思っていた。
なのに。
何故なのだろう?
男の自分に、相手さえも居ない自分に、何故こんなことが起きるのだろうか?
思いつく疑問は底知れない。


今日は平日。
そのため、みんな学校へ行っている。
俺だけはまだ余り動かないほうがいいということで、先生の家に居た。


「なぁ・・・何で俺なんだ?」

もし、そんな天変地異を起こすだけが目的であれば、
別に俺じゃなくても他の男の腹の中でその命を芽吹かせば良かったのではないのか?
何故、俺なのだろうか・・・?
そんな不安を言ってみても、反応するわけも無く。
再び部屋は静寂に襲われる。
俺は立ち上がり、キッチンへと赴いた。
冷蔵庫の中には先生が俺の気にかけて作り置きしていた食事が沢山入っていた。
その中でも、比較的食べやすそうなものを選び、レンジにかける。
低いうなり声を上げながら稼動する電子レンジ。
暫く待つと、チンと甲高い音が聞こえ、レンジの明かりが消える。
中から取り出した食事を俺は箸片手に再びソファーへと向かった。

「・・・前はもっと、食べれたのに・・・」

今では、吐き気に襲われ殆ど食べれずじまいだ。
葵先生が言うには、そのうちこういった症状も消えるそうだ。
個人差はあるものの必ず消えると教えられた。

少し気持ち悪くはあるが、無理をしてでも食事を口に運ぶ。
しかし、半分まで食べてギブアップだった。

「・・・また、後で食べよう」

そういって、残した食事は数知れず。
今残したのも、結局はゴミ箱行きになるだろう。
テーブルに残った料理と箸を置き、そのままソファーに寝そべる。



怖い・・・。

怖いこわい恐いコワイ。



何故こうなったんだろう?
今まで別に普通だったのに。
前兆も何も無かったのに。


怖いこわい恐いコワイ。


どうすれば良い?
何が一番の最善策なのだろう?


怖いこわい恐いコワイ。


ふと海外にいる両親の顔が浮かんだ。
やはり伝えたほうがいいのだろうか?
そりゃー自分の親なのだから、何かあったら言わなきゃいけない。
しかし、なんて言う?
そのまま孫ができるとでも言えばいいのか?


怖いこわい恐いコワイ怖いこわい恐いコワイ。


学校はどうする?
女子じゃないから、確か退学処分じゃないはずだ。
そういった問題を他校の女学生と起こして学校にばれた場合は退学処分。
しかし、これは俺自身のことだ。
まさか、学校側だって男子生徒が妊娠するなんて思っても見なかっただろう。
自分だって考え付きはしない。


怖いこわい恐いコワイ怖いこわい恐いコワイ怖いこわい恐いコワイ怖いこわい恐いコワイ。


俺は暖かい日差しの中、凍えるように自分を抱きしめ、丸くなった。
どうしたらいいのだろう?
どうすればいいのだろう?
何をすればいいのだろう?
何が出来るのだろう?


両親。
家。
学校。
友人。
教師。
寮。


怖いこわい恐いコワイ怖いこわい恐いコワイ怖いこわい恐いコワイ怖いこわい恐いコワイ怖いこわい恐いコワイ怖いこわい恐いコワイ。


全てを遮断するかのように、両耳を塞ぎそのまま眠りについた。



























戻る
小 説TOP






********************************************************************
暗くてすみません;

周りが盛り上がりすぎかなーとちょっと思ったので、
思いっきりヒートダウンを・・・・。

















カウンター