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※この話は全てフィクションです。
  ストーリに出てくる団体、人物名等は全て現実とは関係ありません。




















・ 【憑き人(つきびと)】・・・もののけ、狐などにつかれた人。
「わび泣いたる様の心苦しげなるを、憑き人の知り人どもなどはらうたく思ひ」
『枕草子(一本二三)』


―― 広辞苑 ――


人生というのは知らない事が沢山ありすぎて、気がつかないまま終わってしまうことが――きっと、ある。
けれど、もしその中の何か一つに気付いてしまったとしたら、その時、人生はどう変わるのだろうか。




神奈川県横浜市の中にある、一般の私立校。
交通の便が便利で、偏差値もちょうどいい。
そう思って入学したとある私立のエスカレーター式の高校。
けれど、今思えばあの進路を考えた時点で何かに引き寄せられていたのかもしれない。
















最寄り駅はJR東日本横浜線、新横浜駅。
其処から徒歩15分程のところにある、私立翠晄学園しりつすいおうがくえん
県ではそれなりに有名な私立校であり、幼稚舎から大学院まである。
レベルは、大体、中の中から上の下まで。
言ってしまえば、良くある一般のエスカレータ式私立学校で、高等部、中等部、小等部は同じ敷地内に建っており、幼稚舎、大学、大学院はまた別の所に一緒に建っている。
元は女学校だったらしいのだが、少子化の為か年々生徒数が減ってきて、経営に影響が出始めてしまい、5年ぐらい前から共学にしたらしい。
そして今では――共学の策が功を奏したのか――この小中高等部を合わせても5,000人は超える生徒でごった返している。



今日、4月21日。入学式以来、久しぶりにこの高等部に足を踏み入れた一人の生徒が居た。
その生徒は入学式当日、家に帰った後直ぐに高熱を発してしまい、2週間ほど入院する羽目になってしまったのだ。
その生徒の名前は、塚原鞆揶つかはらともや
めでたく一般受験で翠晃学園高等部に合格し、この4月から通うこととなった男子学生である。


鞆耶の家族は、両親と中学1年の妹と小学5年の弟、合わせて5人。
父親が金融業を行っており、鞆揶が合格した時と同時に、仕事の都合で北海道への転勤を余儀なくされた。
せっかくの高校合格を今更の取りやめはもったいないとの理由で、結局今まで住んでいた家に鞆揶は一人で暮らすことになった。
気ままの一人暮らし、と思っていたがいきなりの高熱。
既に家族は北海道へと旅立った後で、鞆揶は親戚の叔母に面倒を見てもらうことになってしまった。
それからあれよあれよと、入院してしまい、今にいたる。




(はぁ〜・・・初っ端からこけてしまったがこの先大丈夫だろうか・・・・?)
一抹の不安を抱えたまま、高等部の門へと続く道を鞆揶は歩いていた。
そして、残り15mほどで高等部の正門に差し掛かる、というところで、

「退いた退いた―――――ッ!!!!」

いきなり、自転車のタイヤが地面を蹴る音とブレーキの音が鞆揶の頭上から降ってきたのだった。

「・・・・ッ!?」

一瞬、古い映画のごとくスローモーションしていく視界に、二人乗りの自転車が横切っていき、遮って・・・・・

「う・うわぁあああッ!!」

鞆耶は寸でのところで横に転げたが、額を地面に強かに打ち悶絶した。
その直ぐ真横に「ガシャンッ!!」と、自転車が地面に着地した音が聞こえ、背筋に鳥肌が立ったのは言うまでも無い。
間一髪。鞆揶の頭に過ぎった言葉はまさにそれだ。
自転車のタイヤは鞆揶が倒れているほんの30cm先。もし、とっさに避けなければ間違いなく再び病院暮らしを余儀なくされていただろう。

「な・なにすんですかッ!?」

慌てて立ち上がろうとするものの、先ほどの衝撃で足がすくみ、仕方なく地面に四つん這いになりながら、自転車の運転手へと怒鳴った―――――が、

「・・・・・あきら・・・お前は俺を殺したいのかッ!!?」
「あ・・・悪ぃ、兄貴」
「悪いで済むか!?死ぬかと思ったぞ!?」
「死んでないから大丈夫だって!!」
「大丈夫なわけあるか!!あんな危険な運転、今後は認めないからな!!」

聞こえてきた二人の声は、未だ震える足に上手く立てない鞆揶を無視した会話だった。

「あ・・・あの・・・」
「じ・自転車の運転はスリルがあってこそのもんだろうが!」
「そんなことあるわけ無いだろうが!!自転車は空中を飛ぶものじゃなく地面を走る乗り物だぞ!!」

そういえば、と未だ地面とお友達状態の鞆揶は思った。

(さっき自転車は2人乗りのように見えた気が・・・)

先ほどのスローモーションを頭の中で再生しつつ、ようやく落ち着いてきた足をゆっくりと立たせ、初めて真正面を見やる。
其処には、同じぐらいの背丈で顔の良く似た2人の青年が自転車にまたがり、口喧嘩の真っ最中であった。
一人は、黒い髪――それこそ日本人特有の緑の黒髪である――を左側で一まとめに結び、視力が悪いのか眼鏡を掛けた青年、 そして運転していたのは金髪に染めた髪を肩に掛かるくらいに伸ばした青年。

つまり・・・

(あの自転車は男2人分の重さ+自転車の重さ×落下速度による割り増し分の重さ・・・・・)

改めて考え、心から、あの時とっさの行動を取った自分を褒めたたえたのだった。
二人乗りは危険です。色々な意味で。重さとか・・・・重さとか。
そんなこんな頭に浮かんでいるうちに、目の前の二人の口げんかはヒートアップしてきた。

「大体、兄貴は一々うるせーんだよ!!この間だってステーキは左端から食えとか、その前だって箸をちゃんと持てとか!!」
「それはマナーが出来ていないお前がいけないんだろうが!!」

鞆揶はあまりの衝撃に我を忘れかけていたが、終わりのなさそうな兄弟喧嘩に再びうつつへと戻った。

「っちょ・・・喧嘩しないで下さい!!」

今更どうやって割り込めばいいのか分からないこの状況。この二人に言える言葉は、やはりこれしかないだろう・・・。
鞆揶は少し情けない気分で、一先ず二人の喧嘩を止めることに専念した。
ようやく鞆揶の言葉にふと喧嘩を止め、振り向いた2人。その第一声は、

「「誰だ?」」

つっこみ処のない見事に重なった言葉。
多少なりとは予想していたとはいえ、あまりな言葉に脱力し、再び地面とお友達になりかけそうになった時、

「いくら何でも、それはあんまりなんじゃない?」

と、直ぐ横から若い女性の声が入ってきた。
思わずそちらを振り向くと、そこには鞆揶の正面に居る片方の青年みたく、 黒くゆったりとした髪を腰下まで伸ばした美女と、その横に雪のような白銀の長い髪を膝程まで伸ばし、 金色にも見える茶色の目をした、身長ゆうに190cmを超えるのではなかろうかという青年の2人が立っていた。

「!?」

いきなりの2人登場に再び頭の中がパニックになった矢先、

炸鵺さくや の言う通りじゃ二人とも。いくらなんでも其処の少年にすまなかろう」

長身の青年は、さも呆れたように喧嘩していた二人へとつげる。
しかし、鞆揶はあまりにもお目にかかることの無いその高さに何も言えず唖然と見上げていると、

「あ〜あ、こんな所にでっかいたんこぶこしらえちゃって・・・」

炸鵺と呼ばれた少女は、いきなり鞆揶の前髪をかき上げ、その額をまじまじと見る。

「・・・・///!?」

行き成りの事に、尚更にパニックに陥る鞆揶。
当たり前だろう。
いきなり自転車に轢き殺されるは、自分の訴えはスルーされるは、 美女にいきなり前髪を上げられしげしげと額を見られるは・・・・頭のキャパシティーがオーバーヒートする一歩手前だ。

「・・・・炸鵺・・・その子から離れてやれ・・・・パニック起こして固まってるぞ」

そんな折、先ほどの眼鏡を掛けた青年が少女を諌めたのだった。







「いや〜悪ぃ悪ぃ」
「怪我は無かったか?」

今更改めて言われると、どこか悲しいような気分もしないでもない。
でも、

「危うく死に掛けました」

言いたいことは言っておきたい。
それは人として当然だろうと鞆揶は思う。

「本当に悪かった」
「原因はコイツだが、俺もすまなかった」

二人は頭を下げた・・・が。
兄の台詞に再び弟の心の炎はくすぶりだしたらしい。

「兄貴、原因が俺ってどういうことだよ?」
「そのままだ。お前があんな無茶な運転をしたからこうなったんだぞ?」

またもや始まった兄弟喧嘩。

「それを言うなら兄貴、今朝、自転車に乗せてくれって言ったのは何処の何方様ですか?」
「確かに今朝方、俺は自転車に乗せてくれと頼んだ。だがな、俺はあんな運転は頼んでないぞ?」

ぎちぎちと音がする程、通学鞄の取ってを握り締める兄。

「あれが俺の運転方法なんです」
「明らかに運転の仕方を間違えてるだろうが!」

次に弟が口を開いた瞬間。
耳に聞こえてきた学校のチャイム。
その音にはっとする。

「やばい!!」
「予鈴が鳴っちまった!!!」
「祥慶!!行くわよ!!」
「ああ」
「え!?ちょっ!?」

一人展開についていけない青年。

「ほら!!あんたも早く!!!遅刻したいの!?」
「嫌です!!!」

慌てて後を追う様に走り出す。
自分のクラスに付くまで、その足は止まることはなかった。






















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こんな感じで話しを進めようと思っていた作品。
まぁそのうち、きちんとした物にできたらいいなぁ〜。