キッカケなんて言うものはごくごく小さく日常に溶け込んでいるとは、其の時の自分ではまったく気づかなかっただろう。
ある日の夕方、職務を終え資料の整理をしていると珍しい者が私の部屋を訪ねてきた。
「ハァ〜イ、ジュリア〜ス元気〜?」
それは、オリヴィエことだ。
普段はまったくと言っていいほどここを訪れることはなくむろん館にも訪れることはない。
「何の用だ?」
「あら、ご挨拶ね。せっかく来てあげたのに」
相変わらずの性格に私は心の中でため息をついた。
「あんたんとこの馬が子供を産んだって聞いたからちょっと見てみたいなと思ってね」
と、切ってきた。
なるほど。以前オスカーに新しい子馬が生まれたことを話した覚えがあった。どうやらその子馬のことを言っているらしい。
「この資料の整理が終ったら見に行こうかと思っていたところだ、しばらく待っていろ」
何故か、何にも返事がなかった。だから、こちらで勝手に了解と置き換え、私は残っていた資料を簡単に片付けた。
馬の策の前につくと係りの者に頼み、新しく生まれてきた子馬を連れて来てもらった。
「へ〜これが新しく生まれた子馬ね〜♪真っ白い毛並みしてるねあんた♪」
機嫌が良く馬に話し掛けて鼻筋をなでている。
「この馬、なんて名前なの?」
急に話をこちらに振られ少し驚いた。何故、驚いたのかは自分でも分からないが・・・。
「・・・名前はまだ決まってはいない。なかなかいい名前が浮かばなくてな。早くつけてや
りたいとは思うのだが・・・・」
「ふ〜ん」
私がそう言うと相槌を打って何か考え出した。
少し気になって何を考えているのかと聞こうとした時に、
「サファイア」
相手はいきなり言ってきた。
「子のこの名前さ。『サファイア』いい名前だろ?」
少し笑いを含みこちらを見ながら。
「・・・『サファイア』か・・・そなた、馬に興味があったのか?」
「そんなにないけど、いいじゃんたまには♪それに素敵じゃない『サファイア』」
そう言いながら、馬の首をなでていたオリヴィエに、私は少し見入っていた。
「ね〜いいでしょ?いい名前じゃない『サファイア』」
「あ・・・ああ。いいだろ」
「・・・どうしたのさ、ジュリアス?ボーっとしちゃっていつものあんたらしくないよ?」
私は何も言わずゆるく首を振って答えた。気が抜けていたのは事実だがその理由が、自分で
もわからなかったのだ。
「さて、そろそろ帰るとするか」
私は考えを途中で中断さるよう、自分に言い聞かせるためにそう言った。
「あ、あのさ、ジュリアス」
と、あとは係りのものに頼み策から離れようとしたとき、
「ちょっと、やらない?」
と、酒を飲むまねをして、オリヴィエは悪戯っぽく笑った。
明日は土の曜日で特にこれといって予定はなかったし、それに・・・今日は私も少しおかし
かったのだろう。
「・・・・たまにはいいだろう」
と、返事を返し、そのまま続けて、
「では、私の館へ行くか。そなたのとこよりは近いだろう」
と、歩き出した。
「あ、ちょっと待ってよ!」
少し慌てた声が背後からし、追いかけようとしてきたのがわかった。
だが、2、3歩歩き出したら馬の甘える鳴き声が耳に届いてきて、後ろを振り返ってみる
と、先ほどの子馬がオリヴィエの服をくわえた。
そのことに胸のどこかで引っかかるものを感じたが、甘えているのだと思うと、苦笑じみた
ものが顔には浮かんだ。
「まったく・・・甘えん坊だねあんた。・・・仕方ない、ジュリアスここで飲も!!」
オリヴィエは、こちらが了解する前に係りの者に何やら話をしてことを進めてし
まい、結局・・・・
「はぁ〜たまには月を見ながらの酒もいいもんだね〜」
策の前で飲むことになってしまった。だが自分でも不思議なことに嫌とは思ってないらし
い。
それ以前に・・・
「ジュリアス様!!」
その時、突然茂みからオスカーが出てきた。
「どうしたのさオスカー?」
「・・・何でお前がいるんだオリヴィエ・・・?」
「見て分からない?一緒に飲んでんのよ」
オスカーは聖地から私宛の書類を持ってきていた。いつもならここで素直に礼を述べるのだ
が、何故だか素直に礼の言葉が出てこない。
「どうしましたジュリアス様?」
「いや・・・なんでもない」
「しかし珍しいですね。ジュリアス様がオリヴィエなんかと一緒にいるなんて。しかも酒を飲んでいるとは」
「悪かったわね。アタシなんかで。どう?あんたも一緒に飲む?」
その言葉に私は視線だけをオリヴィエに向けた。
「お!これは・・・なかなかイイ酒じゃねーか♪」
ひょんなことから一緒に飲むことになったオスカーに苛立ちを覚える自分がいた。
自分でも驚いている。オスカーに苛立ちを覚えるなどとは。
「ジュリアス様・・あの、何か・・?」
なんでもない。と、それだけ短く告げた。
今日はやはりどこかおかしいらしい。オスカーに話し掛けられるたび胸の奥にどうしようも
ない怒りが湧いてくる。
ここはひとまず引こう。そう思い私は館に戻ることにした。
「ジュリアス?」
「どこへ?ジュリアス様」
「もうそろそろ館に戻ることにする。お前達はもう少しここにいるがいい」
それだけ言って、私はその場を去った。
帰り道、どうもわからずにいた。
なぜこんなにもオスカーに苛立ちを覚えオリヴィエに興味が湧くのか・・・
そのことに私の中である一つの考えが不意に頭の中に浮かび上がったが・・・。
だが、まさかそんなはずはないだろう。そう思うと自然に笑いがこぼれたが、足取りが先ほ
どより軽く感じられる。
さきほど、オリヴィエとともに見ていた月が綺麗に輝いていた夜
今は、今はそれで良いと考えることにした。
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古いもの。発見いたしましたよ。ジュリアス君。
っていいますか、本当に古いよこれ・・・;
いつだ・・・?
実際に書いたのは高校1年ぐらいかもしれないけれどこの案を考えていたのは確か中学生時代だったような・・・・(遠い目)