憩い










休暇をもらってから、4日あまり。
俺はなかなか充実した時間を過ごしていた。
朝、その日の分の猟に出る。
獲物は、魚であったり野兎であったりまちまちだ。
朝飯を食った後、川辺へと出向く。
そこには、必ず夏侯惇が来ている。
そのまま軽い運動と称し、2人で刃を交じわう。
分かれてから暫く昼寝をし、再び狩にでる。
夜は、川辺にはいっていない。理由はない。ただ、なんとなく行かないだけだ。
夏侯惇からは何も云わないから、きっと向こうも行っていないのだろう。

そんなある日、いつも通り食後の運動を終えてから、俺は昼寝をせず気ままに馬を駆っていた。
馬の進む方へ自由に走っていくと、林と岩が混雑していた場所に入り、森へと進んでいった。
こんな場所もあるのか。
あたりを見回すと、城下町で売られていた果物も見て取れる。
手が届く果実をもぎ取り、そのまま齧ってみると、口の中に広がる酸味の効いた甘さと、喉を潤す果汁。
帰りに持って帰るか。
そのまま馬は気の向く間に進み、ふと、足が止まった。

「ん?」

不思議に思い、前を見ると納得した。
そこには、樹齢千年を超えるのではないかというほどの、大きな大木が一本、悠々とその巨体を立たせていた。

「すっげー・・・・」

見上げてみても先が見えず、その上、茂っている木々で空さえも見えない。
となると、やることは一つ。





「・・・これ、どこまで行くんだ?」

木登りである。
大木を上り始めてどれくらい足っただろう?
いくら上ってもまだ先の見えない状態に、少々嫌気が差し始めた頃、

「ん?」

視界にちらついた太陽の光。俺はもう一息と、気持ちを改め、再び手足に力をこめた。
そして、

「おぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

一気に広がる視界。その素晴らしいほどの眺め。
このあたりで一番高いのではと思われる。

「あれ・・・もしかして街か・・・?」

視界の先に見えるのは近くの街だ。近くと言っても馬で駆けて丸二日はかかる遠い街である。
これはもう凄いとしか言い表せない。これほどまで高い木があったとは知らなかった。
俺はしばしこの絶景を堪能してから、木を降りた。もちろん帰り際に夕飯の調達をするのも忘れずに。




そして。




「何だと?」
「だから、今日の訓練はちょっと置いといて、遊びに行かないかって言ってんだよ」

次の日の朝。いつものように、朝飯を食い終わり川へと出向くと、其処には既に夏侯惇が待っていた。

「遊びに・・・?どこへだ?」
「それは着くまでの内緒だ」

そのまま、それぞれ馬に跨り俺は先頭を切って駆け足で馬を駆る。
後ろを向くと着いてくるのが見て取れる。
俺はそのまま昨日見つけた大木の元へと進んだ。




「これは・・・また凄いな・・・・」
「だろ?昨日偶然見つけたんだ」
「いったい、何年をこの場所で過ごしたというんだ・・・?」

圧倒されている夏侯惇を見やり、俺は口を開いた。

「上ってみねーか?」
「これをか?」
「昨日上ってみたんだけどよ、すっげー遠くまで見えんだぜ」
「ほぉ・・・・」


と、うわけで――


「おい、餓鬼・・・」
「何だよ?」
「いったいいつまで上ればいいんだ・・・・?」

大体半ばまで上った所といったところか。
先の見えない木登りに、夏侯惇は大分疲れたらしい。

「まだ・・・大体半ばだぞ?」
「半ば・・・これでか?」

上り始めて、既に一刻(現在にして約30分)は過ぎただろうか。
確かに大分上ったか。

「これぐらいでへばったか?」
「お前は疲れないのか・・・?」
「年が違うんでね」
「・・・・・言ったな、この糞餓鬼」

そのまま怒りの力でどんどん上ってくる夏侯惇を尻目に、俺は悠々と余裕で再び木を上り始めた。





早く、早く頂上へ。

そう思いながら、俺は次々と枝を渡り上って行った。













戻る
TOP


























カウンター